永遠と耐用年数のあいだ

森瑤子さんの「デザートはあなた」は、日本がバブル華やかなりし頃の小説。岩城滉一さん主演でテレビドラマになった当時、ボクも毎週日曜日の夜にボォーっと観ていました。なぜ曜日まで憶えているのかって?初任地福岡の日曜夜は、週明け1週間分のアイロン掛けが恒例だったから。アイロンと岩城滉一はセット物なのです。

主人公は大西俊介(岩城さんね)、世界最大の広告代理店(電○のこと?)に勤務する独身貴族。食と文化貢献(サグラダ・ファミリアへの支援。実際に日本人彫刻家が活躍していますね)、そしてバイクとヘミングウェイを愛する色男という設定です。先代から相続した土地に建てた外国人用アパートメントに自らも居住しているという‥。

今ならば「ちょっとねー」ではありますが、当時の空気を表していたとは言える。自宅に招いた美女を前に、丹精込めた料理を振る舞った挙げ句「デザートはあなた‥」に毎度逃げられる大西。親友役と主題歌には忌野清志郎さん。いい味が出ているドラマでした。

Question.ここで問題です。次の文中の[  ]に入る数字はいくつでしょう?

北軽井沢に建設中のホテル開業に合わせて壁画制作を請け負う女性美術家を、大西が陣中見舞いに訪ねる。大西の「君の仕事は永く残っていいね」という一言に返ってきたのが、「そんなことないわ。コンクリートの寿命は何年だと思うの 、[ ]年よ。私の作品も[ ]年後には朽ちた建物とともに瓦礫となるのよ、アーメン」という美術家の言葉。

Anser.さて答えは、ご想像にお任せします(怒!)

当時はまだ古いコンクリート建物が今ほど多い時代ではありませんでしたし、建物や設備の更新工事も今ほど普及していなかったことでしょう。法定耐用年数が建物の寿命だと言う人もいた時代ですからね。

小説中には、更にこんな会話もありました(※全て要約です)。

大西「それにしても何だよね、このホテルもここに建つ必然性が感じられないね。どうして日本には、踏み入れた途端にドキドキするようなホテルがないんだろう」

女性美術家「そうね、セビリアのアルフォンソ十三世みたいなホテルね。でも唯一の救いは私に壁画を頼んだことよ」

そんな登り坂の時代が表現された小説ではありました。翻って(少しは枯れた)現在の日本は、より周囲に馴染む建物をつくっていると思いたい。そして、そういう建物を造るようになるまでには、現在に至るまでの時間と経験が必要だったとも…。

と書いたものの、難しい問題はわからないので置いておくとして。いずれにしても、コンクリートの建物も(永遠ではないとしても)長寿ではあって欲しいところです。

ところで、今年の夏。蝉しぐれを聴きながら汗をかきかき出掛けたのは、10年以上前にウチが初めて手掛けた団地、そこにある隣の住棟。

当時でさえ齢四十を超えていたその団地は、いまや五十余にして益々健在です(先の女性美術家によれば、もう「アーメン」ですな…)。10年余の歳月なんてへいちゃらョと言わんばかりに、当時と変わらぬ姿で存在していました。

より永遠に近い建造物であるのが石造り。それが持つ悠久の時間のようなものを、「より耐用年数に近い」コンクリートの白い箱に見い出した気がしたものです(気のせいですか)。

蝉の声を聞きながら、そんな一瞬の小旅行(トリップ)となった夏の一日でした。

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