いなかのねずみ

EINSTEIN by Torben Kuhlmann

先日、都心のタワーマンションに住む知人を久しぶりに訪ねました。上り電車の窓には夕焼け小焼け。空が暮れゆく一方で、街が眩しく光り始める時刻です。電車がターミナル駅に滑り込む、改札を抜けて人混みに流されるように向かったのはデパート。(ヒト、多いゎ‥)

お店に行くのもナンだから自宅においで、と忙しい知人の誘い。そんならツマミはオイラが用意すんべ、という訳でデパ地下です。こんなの毎日喰ってたらウチの家計は破綻するゾなどと思いながらも、あれこれ物色中のおばさん(失礼、オラはオジサンか‥)尻目にパパッと総菜を買って、タクシーに。あ、フルーツも忘れずにネ。

それにしても都心のタワーはゴージャスです。車寄せから、エントランス、吹抜のホールにラウンジ、(どうも!なんて挨拶しながら)レセプションも通過。2ヵ所目のオートロックをクリアしてようやくEVホールだ!(ハアハア、遠いナ‥)。超高層タワーの廊下はもちろん内廊下で、床はカーペット。この静謐さ、まさにホテルライクです。当たり前か‥。

固い甲羅に守られたような堅牢な建物、暑い寒いと無縁な完全空調、煌めく摩天楼の眺め、遠く地上から聞こえてくる都会の喧噪。うん、ここは大都会だ、それも、とても快適な‥。

楽しい宴を終え、光が溢れる都心部から郊外に辿り着いての道すがら。実感するのは、夜が暗いということ。でもそれは嫌ではなく、むしろホッとする瞬間でもあります。空気いいなぁ、なんて思ったりしながら、トボトボと‥。

そんな帰途にぼんやりと思い出していたのが、この季節ならではの照明の温かさ。

今月初めの夕刻、ボクが複数住戸を手掛けたマンションの前を通り掛かった時のこと。ウチで販売した住戸の専用庭に(2階に迫るほど)大きなツリーが置かれ、単色の柔らかな光が灯っていました。米国生活の長い素敵な方で、ツリーのサイズも飾り方にしても、どことなくアメリカ仕込み。街の華やかなイルミネーションも良いですが、郊外の夜にはこんな静かな明かりが似合います。夕暮れ時に眺めているだけで、温かく豊かな気分になったことを思い出しました。

そういえば少し前のことですが、あるマンションが冬季期間中のイルミネーションを計画した際に、ボクがお手伝いをしたことがありました。ウチの物件を購入された方が理事になったご縁で、「イケダサンなら室内同様に(安く!)素敵に仕上げてくれるだろう」というもの。嬉しいけど勘違い、こちらはシロウト、コマッタよ!しかしここは引けないところ‥。無給を条件に(だって謝礼はキチンと、と仰るので‥)、デザインと購入器具を提案させていただいたのです(実はデザイナーに泣きついて、タダで相談に乗ってもらったのだが‥)。結果は上々。ちょっと旧めの大規模住宅の中庭に、しっとりと馴染んでいたその明かり。今思い起こすと、先の米国仕込みのお庭に似た、白熱単色の静かで優しい光が灯っていたものです。

住まいの内と外がつながるバルコニーや専用庭。家の中だけでなく、窓の外にも(ツリーじゃなくても、少しだけ‥)明かりを灯してみてはどうでしょう。ぼんやりと灯る光は、外を歩く誰かの栄養になるかもしれません。もちろん自分にとっても‥。

外に明かりを灯すと、夜は鏡のように室内を反射していた窓ガラスが、スッと見通せるようになります。明かりと一緒にバルコニーに置いたグリーンやオブジェが、昼とは違う空間を広げてくれるかもしれません。でも外から丸見えじゃぁ困りますから、ブラインドを足元だけ上げてもいいですね。最近はLEDのソーラーライトも種類が豊富ですから、電源不要、維持費も不要。部屋内から外側へ、春に向けてお楽しみの領域を広げてみるのも良いですね。

バー、バル、バール、 ババール、バルバル

吐く息が白い冬の朝、まだ薄暗い街角の冷えた石畳を歩く。明るく灯る一角は、早朝から開くバール。秋の終わり頃まではガラス越しに、新聞片手の客や店主の様子が見えた。けれども12月も半ばを過ぎると、窓がうっすらと曇り、店内がぼんやりと映るようになる。そんな些細なことで、あぁ冬になったのだ、と思うのだ。

そう、そんな寒い朝は暖かなバールに足が向いてしまう。ドアを開けると漂うカフェ(エスプレッソ)の香り、温められたコルネット(パン)も甘く誘う。抽出するマシンの音、客たちのざわめき‥。サッカー談議、新聞記事をめぐるあれこれが聞こえてくる。そしてカップの中の液体を飲み干すと三々五々、皆が店を出ていく。それぞれの一日が始まるのだ。(※これはイメージです)

寒い冬の朝、暖かく賑わいある店内が目に浮かびます。え、浮かばない? 

香り高いエスプレッソ、そして街角のバールと言えば、これぞ大衆イタリア。でもこれらは以外にも歴史は浅く、エスプレッソが本格的に普及したのは戦後で、その舞台となるバールの由来はアメリカにあったのですって。

気軽なカウンター立ち飲みスタイルのアメリカンバーがイタリアに入ってきたのは20世紀初め。そして同じ頃に誕生したのが、注文に応じて1杯ずつ素早く(即ちエスプレッソ≒急行で)抽出する機械(エスプレッソマシンの原型)。この二つがタイミング良く結合したおかげで、エスプレッソが世に街に出ることになったようです。その後、戦時中に敵国名が外れて(でも同義の伊語がなかったので)単に「バール」となって戦後を迎えます。そしてマシンが改良・量産されたことで、エスプレッソを安く、早く、立って飲める庶民憩いの場所となったバールは、瞬く間にイタリア全土へと普及していったのでした、めでたしめでたし(えらく駆け足ですが‥)。ということで、エスプレッソの誕生と普及には、マシンの開発とアメリカンバーが不可欠な両輪だったわけです。

閑話休題‥。冬の風物詩として思い浮かべるのは、

「結露ですね」(‥?)。

さすがにそれはないでしょうが、比較的旧い住宅に暮らすとなると大なり小なりついて回るのが結露。住まいや暮らし方によって発生の程度は様々、またその付き合い方も十人十色です。極端な話、解消するなら室内外の温度差をなくせば良いのですから(冬にそんなことしたらタイヘンだ‥)。

というわけで、我々と一心同体とも言える結露(そんな心配ご無用!の住まいもたくさんありますが‥)。どうせなら幸せな結露生活をしたいものです。「しあわせは いつも じぶんのこころがきめる」と相田さんが言う通り、心持ちが大事。バールに立ち寄るイタリア人(?)のように、曇ったガラスに冬の到来を知り、思いを馳せてみれば‥

そんなに甘くないんだ! 窓びっしょりなんだよ!

そうです、その通りですね。解決方法は、①ペアガラスに替える※、②インナーサッシを付ける、でしょうか。①:アルミの窓枠は変わらず結露する、②:開閉が面倒である、と一長一短ですが、かなり改善されることでしょう。(※①の場合、管理組合との協議が必要です)

それだけでなく、暮らし方も大事。心掛けることは‥。窓を開ける、換気扇を回す、調理に火を使わない、暖房しない、風呂の湯を溜めない(湯気ね)、息を止める(結構な水蒸気ネ)‥など豊富なメニューがあります(‥ムリアルヨ)。

いずれにしても、十人十色の傾向と対策で、心地よく、穏やかな冬を過ごしたいものです。

ところで、表題にある言葉の羅列は何か意味あるんでしょうか?

「バーバル、ババババ‥? バー、バル?。そうか、意味は全部同じで、言語が違うということだな、ハハン。」

「バーはエイゴ、バルはスペイン語だろう。バールはわかる、エスプレッソだイタリアだ。」

「お次はババールか‥。バザールなら知ってるが、ペルシャ語でイチバだが‥」

「バルバル‥バルバルバルっ? うーん、ワカラン‥」

どうもスイマセン‥

変わらぬものに

上の写真は、物件選びからリフォームまでをご一緒したMさんからのいただき物。同じお店のお菓子を二度もいただきました(モノ欲しそうに見えたか‥エヘヘ)。お住まいの地元にある老舗洋菓子店だそうです。手作り感を残した品の良い焼菓子。シンプルな材料を贅沢に使って作られた美味しさは、駄菓子好きのボクにだってわかるくらい。

後日、たまたまWeb上でこの店を目にしました(普段ならスルーでしょうが、このイラストは!と)。有名店なのですね、地元マダムも子供の頃から‥と紹介されています。載っていた人気商品のひとつが、創業以来のクラシカルなケーキ。あれ、これ食べたことあるぞ。ボクが幾つも物件を手掛ける駅にある洋菓子店のそれと瓜二つ、ケーキの名前も同じです。つまり、多摩丘陵の小さな駅前洋菓子店にもあったということ。

でも、ダミエというそのケーキ、他所(よそ)では聞かないな。もしかして古典的すぎて、もう誰も作っていないだけなのでしょうか。ちょっと気になったので、そのケーキの名前で検索したところ‥、「Mさん地元の洋菓子店」と「こっちの洋菓子店」ばかりが出てくるではありませんか。

流石にこれは何かある(笑)、訳があるでしょ。店に行って聞けばいいのですが、それもナンだから、あれこれ調べると‥

50年以上前に、当時のチーフパティシエが独立して新たに構えたのが多摩丘陵の洋菓子店なんですと。なんと半世紀以上!姿かたちを変えることなく、二つの店で同じバタークリームの生ケーキが作られ続けてきたんですね‥。

名物にうまいものなし、とまで言われてしまう旧いモノたち‥。でも、変わらぬように見えて、実はたゆまぬ進化をしている名物もあるはず。逆にニンゲンの方こそ、時が過ぎてもさほど変わっていないのではないか、なんてね(古典の先人達を思えば、変わらないどころか‥)。長く作り続けられているものには理由があり、どこか人の心(と舌)を温かく、ほっとさせてくれるものです。新しいヒトには新鮮に、ちょっと旧いヒトにはノスタルジックに‥。

美食や新味、斬新さを求める高級洋菓子は、リフォームに例えると(無理あるケド‥)デザイナーや気鋭建築家のリノベーションでしょうか。だとすれば、心と舌(と財布)に優しく、ちょっと懐かしい洋菓子は、無垢材や汎用品を用いてつくる素朴なリフォームに似ているかもしれません。

とすれば当然ウチは、高級菓子でなく懐かし系の洋菓子、いや駄菓子か‥。そう、放課後の駄菓子屋のほうがぴったりだ。いまだに駄菓子みつけて喜んでいるし(笑)

Mさんもそんな感じでご一緒いただいていたのかもしれません。住宅は人の手で造るモノであって、工業製品じゃないから、とか。そうですね、だいたいそんな感じで結構です、とか(笑)。それでいて、ご自身の好みが存分に反映された素敵な住まいになりましたから。

だとすると、先の洋菓子店のいただき物がよい塩梅に思えてきます。更には、50年をも遡る同じルーツを持つふたつの洋菓子店、それに加えてMさんとのご縁にも不思議なつながりを感じたわけです。