夜間飛行

遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休めるとき、遥か雲海の上を音もなく流れ去る気流は、かぎりない宇宙の営みを告げています。

満天の星をいただく果てしない光の海を、豊かに流れゆく風に心を開けば、きらめく星座の物語も聞こえてくる、夜の静寂の何と饒舌なことでしょう。

光と影の境に消えていった遥かな地平線も、まぶたに浮かんでまいります。

日本航空があなたにお届けする音楽の定期便、JET STREAM。みなさまの夜間飛行のお供をいたしますパイロットは、わたくし城達也です。

・・・・・♪

中学生時代‥。深夜、机に向かいながら聴いていたのが、このFM番組。抑えたナレーション、インストルメンタルの楽曲。それに加えて、番組中盤に語られるショートストーリーが、ボクを見知らぬ世界の街角に誘うのだ‥(ナンチャッテ‥)。

ちなみにこのJETSTREAMは、「海外渡航者を増やしたい」日本航空が長きに亘って「お届け」していた番組。でもそれはそれでいいじゃないか、それに乗っかれば‥。ということで、ジェットエンジン音と航空無線が交錯するナレーションから始まるこの「音楽の定期便」は見事(思惑通り)、見知らぬ国を夢想する少年をひとり増やしたわけです。(しかし後年、渡航の際にJAL国際線を利用することは殆どなかったという‥寂)

現実に世界の街を歩き、社会人にもなってこの番組から遠ざかった頃、城さんが病を得て降板したと知りました。それからもう30年近く経ちます。なんかあっと言う間のコトですね、自分はまだ、荒野を目指す青年のつもりだったけれど‥。

ところであの番組は今どうなっているの、まだあるのかな?とradikoで調べてみると‥。なんと番組は健在で、お供いただくパイロットが(こっちはホンモノ、永遠の青年)福山雅治さんではあーりませんか。ナレーションの文面は当時と変わらない(つまり冒頭にある語りです)。でも、その先を聴くのは止めておこう‥。

夜が深くなるこの季節。

(日本航空ではなくて‥格安航空の)エコノミーシート(ならぬ格安アームチェア‥)に身を預け、夜間飛行に出掛けたいこの頃。手元に文庫本と珈琲(お酒…)の用意ができたら、switch on。お供をいたします音楽は‥

今はyoutubeにたくさんありますからねぇ‥

近産近消

やってまいりました、ながーい木材。現場に整然と積まれたこの床材の長さは4mあります。ここは団地の一室です。なにか、ちょっと違和感がありますね‥。

ここで問題です。

問1.「4mもの長さのある床材をどのようにして室内に運び込んだのでしょうか。なお、ここはエレベーターのない2戸1階段タイプの建物です。」

それでは問2.「この住戸は何階にあるでしょうか。」

それでは回答を‥

問1:「 窓から入れた」

問2:「2階」

どうでしょう、正解できましたか。(んなもん、わかるか!コラッ!)

この長ーい無垢材が部屋の端から端まで、真っ直ぐに継ぎ目なく貼られた床は気持ちの良いものです。

ところがマンションでは殆どお目にかかりません。だって、エレベーターに入らないし‥。そもそも階段も共用廊下も、そして室内でも角を曲がれませんね。だから、通常のマンション床用建材は900(長くても1800)mm程度に加工されているのです。

でもボクは近場でとれたこの床材を使いたいと考えているので、解体が完了した室内の窓から真っ直ぐに搬入してもらっています。となると搬入には限界がありますね。4mの床材を窓からびろーんと室内に入れる様を想像してください。何階まで上がるでしょうか。ちなみに1階分の階高は3m弱です。そうです、せいぜい2階まで。地上から3階住戸への垂直方向受け渡しは、手を伸ばせばできるかもしれませんが、3階の窓で受け取った人は一体どうやって室内に入れるのでしょう‥。ということで、この床材は基本的には低層階に限定して使用しています。

この床材は奥多摩で育ち、製材されてここにやってきました。かつてその辺りにはナラやカシなどが育つ自然林が広がっていましたが、江戸時代(江戸は火事が多いので随時需要があったそうです‥)から第二次大戦中に亘る乱伐によって姿を変えてしまったと聞きます。そして需要に応じるように杉や桧の大量造林が行われて‥。にもかかわらず、次第に外国産木材に押されることになってしまったのですね‥。(国産材の活用には復活の兆しもあるようですが‥)

ということでウチは杉を使うことが多いのですが、もちろん桧もあります。上の写真はヒノキの床材。杉とは違う桧の効果も見込んだクライアントのご希望です。杉よりも白く、きめが細かく、キリっとした鮮烈な香り。ブランド産地でなく無印ひのきですが、それでいいのだ。

ちなみに桧と言っても和風ではありません。北欧の素朴な暮らしにイメージの源泉を求めた今回のリフォーム、節有りのカジュアルな白木は却って北の国の温かさを想起させます。窓外に広がる空や緑と相まって、落ち着いた素敵なお部屋に仕上がる予感があり、クライアントと共にボクもワクワクしています。

無用の用

営業マン:「こちらが、洗面室でございます!」(快活に)

お客さま:「ほー」

営業マン:「こちらは、お便所でございます!」(堂々と)

お客さま:「おーっ」

随分と前になりますがウチの物件で、ある担当者がこんな案内をしていました。別に、洗面や便所に特別な特徴がある物件では「ございません!」。それなのに‥。このふたりの遣り取りが可笑しくて、稀に思い出しニヤッとしてしまいます。ボクが仲良くしていた営業の方なのですが、その爽やかさ(?)のお陰か、購入希望者の案内だけでなく、売却を希望する物件所有者からも信頼の厚い、デキる営業マンでした。

ところで、彼が上の写真のような物件を案内したら何と説明するでしょうか。ちなみにこの空間は、廊下の途中にある元・洋室ですが、現在は廊下側一部に縦ルーバーを配しただけの廊下一体型ホール状になっています。なお奥行のあるルーバーは見る角度によって完全に’壁’となるので、オープンスペースでありながら玄関からこの空間は見通せません。

「こちらは、ドアと壁のない部屋でございます!」

彼なら、そんな風に言ったでしょうか‥。

いや、彼の真っ直ぐな性格から考えると、お客様を前に「‥いけださん、この場所は何とお呼びしたらよいでしょうか!」(大きな声で)

とボクに聞いてきたかもしれません。わからないことを、わからないと言うことは大切ですね。逆に、売主(ボク)の横で、立て板に水でスラスラと(結構いい加減なことを)話す営業マンもたまーにいますが(笑)。(あ、それおいらか‥)

さて、写真のスペースは、何とお呼びしたらよいでしょう。そういえば販売時は何と呼んでいたっけ?(図面を見てみたら「ホール」と記載していました)

いずれにしても、「お便所」や「洗面所」のようにわかりやすく決まった用途はありませんね。いや、トイレや洗面も(本当は)その名称通りの用途に使われていないかもしれないし、目的を限定すべきではないのかもしれない‥。(それじゃぁ一体、お便所を何に使おうというんだ!)

そうです。部屋の用途を特定する、そんな行為が(ただでさえそれほど広いわけでもない)住戸を、もっと窮屈にしているのかもしれません。そんなことを思ったりします。

もっと言うと「ここ何する場所?」のような、「よーわからん」場所があると、その無駄(に思えるもの)が暮らしに別の何かをもたらしてしてくれるかも‥。

Doing nothing often leads to the very best something.

なんにもしないことをすると、いいことがあるんだ。(意味はこんな感じでよいでしょうか‥)

くまのプーがそう言っていました。「何をするか決まっていない場所」と「何もしないことをすること」。ちょっと意味は違うけれど、似たような効能があるかもしれない。

さあ、なんにもしないことを、しよう。

でも、どうやってするんだろう。ウンと‥ウーンと‥