辛口の現実と夢

辛口の現実を知ると、大人はもう一度夢を見る

なぜか覚えていたこのフレーズ、30年前の自動車広告の一文(たしかこんな感じでした)です。MAZDAサバンナRX-7というスポーツカー。搭載するロータリーエンジンは、各社が実用化を諦めるなかでマツダだけが磨き続けた特殊な回転運動型エンジンでした。このフレーズに違わずマツダ自体も厳しい現実に直面し続けていますが、夢を手離さず持ち続けている会社だと感じます。

スポーツカーに乗るオトナが見る夢、とはちょっとキザでビミョーです。しかし、家についてもこのフレーズは、そのとおり!と思います。

昔に思い描いたような暮らしとは無縁だけれど、今は日常の小さなことが嬉しいと思える。小さな家は少し古くて小さいけれど、きちんと手入れをして、味わいが深まっていく。そんな光と風が抜ける家には、小さな夢があるのではないでしょうか。

僕は、手頃でちょっと楽しい住戸づくりに携わっています。手触り感のある素材を多用します。つくり込み過ぎず、詰め込み過ぎず。設備機器もふつうのものばかり‥。そんな家(マンション)にとても親しみを感じています。

簡素なものに宿る心地のよさは、モノに溢れる現代暮らしのなかでは感じ難くなっています。でも、よく目を凝らし耳を澄ませば、暮らしのなかに何かを見出すことは難しくないですよね。そんな暮らしの土台になれるような家を提案していきたいと考えています。

エレベーターがない

緑濃き広大な敷地に建つこの建物こそが、エレ無しの代表格!

最近、エレベーター(EV)ボタンを指の腹で押さず、指の外側を使うことが推奨されています。それどころか、足で床のボタンを押すという海外映像もありました。世間は非接触にシフトです。

かといって、密室でもあるEVを使わないという選択は高層マンションでは難しい‥‥

でもそもそもEVが無ければ階段を使うしかなく、非接触で非密室。3~5階建ての中低層住宅なら可能ですね。EVが不要なので、以前書いた「2戸1階段」型も多いので、リフォーム次第で光と風の抜ける気持ちの良い間取りになります。

EVが無く2戸1階段、の代表格といえば昭和40年代から50年代前半に建築された団地ですね。その広大な敷地を航空写真でみると、戸建てやマンション群が密集した周囲と一線を画す別世界。まるで建物が点在する森のようです。

そのなかでも「エレ無し5階」と呼ばれ、敬遠されがちな最上階。価格は低層階に比べかなりこなれています。そこを逆手に取ってみるのも、確信犯的にはアリだと思います。これをリフォームでサラッと仕上げると良し。旧公団の分譲団地の場合、敷地持分も大きく土地という観点からの資産性が高い場合も多い。持分は5階も1階も変わりませんからね。

団地だけではありませんので、最後にひとつ。マンションのなかには、あえてEVを設置しないことで優れたプランと維持の経済性を両立させた素敵な低層3階建もあります。閑静な住宅地の大きな敷地に、戸建住宅群ではなく集合住宅が設計された時代があったのです。そのことはまた改めて触れるつもりです。

書斎ほしい

自宅で過ごす時間が増えています。仕事場所の確保も悩みどころです。今回は、僕が手掛けたリフォーム済マンションの事例をひとつ。

緩やかな起伏のある敷地内に、3階建の住棟が並ぶ低層マンションです。敷地内の樹々が目に飛び込んでくるのは、低層住宅ならではの豊かさです。

このコーナーは押入れを活用した書斎風スペース。和室のモジュールを活かしたままリフォームしています。ですので、「ピカピカの洋風」ではなく「シブい洋間風」が似合うかと。ちょっとクラシカルな感じです。木部は濃茶色の塗装としました。

シンプルなつくりです。そのままでも使えるし、いろいろ追加してもよし。装飾を兼ねた壁付照明と電源類は新たに設置しました。

購入者の決まっていない住戸をリフォームしていくので、頃合いが難しいです。やりすぎはいけませんね、ちょっとだけ楽しい住戸となるように心掛けています。自分で一からやる時間や気合は無いけれど、既製品よりちょっといい感じだといいナという方。そんな方をイメージしています。

でも、ついついやり過ぎてしまうことも‥‥。いつも自分が住みたい部屋をつくっているので。

風景になる建物

緩やかな傾斜地に豊かな表情を見せる低層住宅

よくある特集「あなたはマンション派?、それとも戸建て派?」

雑誌やWEB上で見かけますね。それぞれの長所短所を列挙しているので参考にはなります。ただ、どうしても最大公約数の一般論になる。

気になる意見で「マンションは四角い箱の画一的間取りでつまらない」というものがあります。…確かにそう。でも、モット・面白イコト・アルヨとも思うので残念。だって、僕が飽きずにマンションだけを扱っているのは、つまらなくないからです。次に理由のひとつを挙げます。

理由のひとつ。時代背景、敷地条件、設計者、チャレンジする開発業者などの要件が整って出来たと思われる、オッと思う素敵なマンションストックに出会うことがあるから。僕はマンションの開発事業に長く携わってきたので、そのレアさを実感します。

そんなマンションは、街の風景として楽しい、敷地を歩いて楽しい、室内で暮らして楽しい。集合住宅だからこそ可能な、豊かな空間に出会うことがあります。そんな物件を暮らしやすくリフォームしたら、もっと楽しくなるでしょ?

学生時代の僕が初めて飛んだのはモロッコ。アトラス越えてサハラへ、地中海を渡りスペイン、イタリアへと続きます。あちらは集まって住む(集住)ことの歴史が長い国々。その街と建物が楽しい。だから僕の旅は、観光せずに街を歩いて空気(酒?)を吸う旅です。立場こそ変われ、ずっと集合住宅に関わり続けているのは、その頃感じた光と風がまだ自分のどこかに残っているからかも知れません。

2戸1階段(ニコイチ・カイダン)

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樹々の手前は大きな公園です、いいでしょ

「2戸1階段」をご存知でしょうか。「隣り合った2住戸ごと」に「1つの階段室」があるという意味。マンションのつくりを表現する用語です。

上の写真は、2戸1階段を採用するマンションを北側から撮影したものです。公園の樹々に遮られて見えにくいのですが、住戸に挟まれた階段室が2戸おきに並び、よく見かける開放廊下がありません。そのため建物にも”裏側感”がなく、すっきりとしています。

開放廊下型か2戸1型か、それとも屋内廊下型か。住戸へのアクセス形式は事業上の判断があって決定していくもので、単体で優劣を語ることはできません。しかし明らかなのは、2戸1型は「主採光バルコニー面だけでなく反対側も完全に開口している。人が目の前を通る開放廊下がなく、面格子もない」ということです。

このことは、僕のマンション選びにおいてかなり重要です。すなわち、あとで変えることのできない基本構造の段階で、光と風が抜ける開放的な住戸をつくれるかどうか、ある程度まで決まってしまうからです。

もちろんその後も、室内の構造壁、動かせない水廻りや配管スペースなど多岐に亘る事項を検討していくことになります。

都心では別かも知れませんが、郊外で緑豊かな空間を味わうのであれば、設備機器や内装を考えるその前に、光や風の通り道について思いを巡らせてみたいものです。

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街と森のあいだに

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さてここはどこでしょう?

見渡すかぎりの青と緑、そして白。工事中の風景です。

答えはリゾートマンション? 伊豆か?いや湯河原方面…。

実はここ、都心から電車で約20分の急行停車駅から徒歩10分の場所です。東京から多摩川を越え、目の前に広がる川崎市最大の緑地「生田緑地」に接する高台のマンション。この住戸は緑地から頭ひとつ飛び出ているため、眼前に海原のような緑が広がっています。室内からの視線がウッドデッキを越えて緑の向こうへ抜けていき、まるで森の上に居るようです。

このあたりでは「街と緑のあいだ」と言える場所を見つけることができます。僕が好んで手掛ける「手頃でちょっと楽しい、緑豊かな中古マンション」は、都心に程近いそんな場所にひっそり位置しています。

こんな場所での暮らしはどうですか。虫もいます、いろいろな生き物が暮らしています。上り坂もちょっとキツイ!このマンションは、先の細道が小さな山の頂上広場に続いているんですよ。

他者やコトとの折り合いをつけて、それぞれが自分の価値観に沿って無理なく暮らししたい。僕の手掛ける住戸も万人受けしないのは当然だし、逆にこういうのが好きな人もいるんだな、と流してもらえればそれでよし。でも、こんな住まいと暮らし方がいいな、と思う方と出会えたら嬉しいです。

今回触れた生田緑地、多摩丘陵の端部に位置し都心にも至近の「街と緑のあいだ」といえる場所です。その意味では僕にとってシンボリックな存在と言えます。機会があれば、また広い緑地のなかをご紹介します。

奥多摩の杉

杉無垢床と漆喰壁

「メニアオバ カベニシックイ ユカニスギ」 眩しい新緑と抜ける青空を背景に鯉のぼりが泳ぐ、そんな季節はあっと言う間に過ぎ去っていきました。

独立して間もなく、奥多摩地域にある製材所に出向いたことがあります。「山を育て、樹を伐り、木を運び、製材して木材へと生まれ変わらせる」仕事場を見せていただきました。まさに東京の木、地元産といえる木材を身近に感じた出来事です。

地産地消という言葉、首都圏でも食物に関してはよく耳にします。住宅についても、昔は地元の木材で普請するのが当たり前のことでした。しかし現在、木造でさえハウスメーカーが主流となっているわけで、近年生まれたマンションにとって地産地消は縁遠いものです。高効率に大量の住戸を生み出すコンクリート建物は、規格化された住宅用建材と一心同体とも言えるものですから。

それでも、時を経て少しやわらかく角が取れたような建物には、つるつるぴかぴかな新建材とは違う手触りのある内装が似合うような気がします。だから僕は、僕の手掛ける少し古くなったコンクリート建物の中身に、なんらかの味わいを残したいといつも考えています。

その一つのかたちとして、独立当時から今に至るまで、裸足の似合う気持ちのよい床材として、この地元産杉無垢材を使わせていただいています。

長さ4m、継ぎ目のない杉無垢フローリングが敷き込まれた室内は清々しいほど。それにしても、この長さの床材をマンション室内に搬入するのはたいへんです。EVも階段室も通れません。

どうすると思いますか?このフローリングは1~2階限定です。なんと、ヨイショと窓から搬入します。なんだかまったく効率的じゃないですよね…。

 

集合住宅という響き

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「それで、いけだ君はうちの会社で何やりたいの?」

「集合住宅です、街に小さな風景をつくるような。大規模開発ではなくて…」

「集合住宅って言う? 普通、マンションじゃない?」

「そうですよね。でも自分のなかでは”集合住宅”なんです。」

「?」

これは、翌年入社することになる不動産会社を初めてOB訪問した時の話。時はバブル期、欧米関連部署にいる多忙なOBに「マンションではなく集合住宅ナノダ」と情緒的な主張をしても、「?」となるのは当然であって…。

以来、そんなこんなで集合住宅、もといマンションに一貫して関わってきました。大規模マンションから低層マンションまでを開発し、地域に張り付くマンションギャラリーも開設しました。規模の大小、地域の特性こそあれ、どれも見紛うことなき”マンション”でした。これも当然ですが…。

そして会社を離れ、独立して10余年経ちます。学生時代に夢想した集合住宅像は何処かへ飛んで行ってしまいましたが、独立後に僕が手掛けてきたリフォーム住戸の殆どが昭和末期の建物。どこか落ち着きと暖かみ感じさせる、暮らしやすそうな建物を選んでリフォームしている自分がいます。三つ子の魂でしょうか。

ところで、前掲写真の書籍は植田実著「集合住宅物語」。私が”シュウゴウジュウタク”と知った顔で発声するのが恐れ多いほどの「ザ・集合住宅」ばかり。戦前の同潤会アパートから戦後のヒルサイドテラスまで描かれています。僕が物件化を検討した”マンション”も載っていてニンマリ。

一体、お前の言う集合住宅とはどういうものなのだ?-と言われてしまいそう。でもどこか違うんですよね、マンションと。それはまたいつか。

 

都心を離れて

 

「緑の多い、ちょっと郊外で暮らしたい」

僕(の会社)が売主のリフォーム済マンションにも、都心部からの見学やお問い合わせが普段より目立つようになりました。

例えばこのマンション。セカンドリビングを擁する大空間が緑地/公園に面していて、床は杉無垢材。ちょっと別荘みたいです。

一般的に、マンション選びの際に重視するのは何かと問われれば、一番多い回答は「交通の便」でしょう。でも僕は「緑、そしてマンションのつくり」と答える。駅近であるよりも緑豊かであることを優先したいと考えています。

必然的に、僕がつくるマンションは駅から少し離れることに。ですから見学された多くの方が「内装も環境も気に入ったけど駅距離がねー」となるわけですが、「こういうの探してた!」という方に出会えるのがとても嬉しい瞬間です。

テレワークが推奨されて、自室に閉じこもる生活の中で、皆さん何か思うところがあったのでしょうか。でも都心暮らしの方がここでの生活を決断するのはなかなかハードルが高いのです。だってこの辺りは多摩丘陵の端部、坂道がすごいんですよ!

言い過ぎました…。坂道がすごいとは言っても、慣れてくるものです。今ではすっかりへいちゃらの僕も都心部からの転入組ですから。

 

はじめまして

はじめまして、東京都世田谷区にあるスモールカンパニー”株式会社スタジオカーサ”代表の池田です。
Studio?CASA?設計事務所やるの?写真スタジオですか?、と設立当時にはよく言われたものです。
実はこう見えても(どう見えて?)当社は宅地建物取引業免許を持つ不動産業者。
へんなの。
そうなんです、へんなの。
どうしてこんな会社名になったのか、一体何をしているんだ!
それは今後、折に触れてお伝えしていくつもりです。
以後、宜しくお願い致します。

↓ 株式会社スタジオカーサのWebsiteは ↓

http://studiocasa.co.jp