絵に描いたような

グランマ・モーゼス、つまりモーゼスおばあちゃんはアメリカの画家。四季がめぐる農村の風景を描いた絵画をたくさん残していて、(その時代や場所を体験していないボクにも)なぜか懐かしく、つい見入ってしまう。

きっとアメリカのどこにでもあっただろう原風景も、季節が移れば舞台も変わる。春には春の、秋には秋の農作業や集いがあって‥。そんな自然と人がつながった暮らし。その暮らしの楽しい記憶がぎゅっと詰まっているような、そんな情景です。

苦労を重ねながら歩んできた、農場暮らしの一主婦が絵筆を取ったのは、なんと76歳の時。それから四半世紀に亘り描き続けたキャンバスには、眼前の風景と一緒に長い人生の記憶が織り込まれているのでしょう。

いくつになっても始めていいんですよね。長い時の蓄積には、即席ではつくれない宝物が眠っている(ことが人によっては、ある)かもしれません。そんな彼女の背景を知って、絵もさることながら、その生き方暮らし方に想いを馳せたボクでした。

ちなみに今回、彼女の絵を見てふと思い出したのは、(これまた古いのですが‥)TVドラマ「大草原の小さな家」。そう、毎週土曜日の夕方でしたね、インガルス一家の物語。(ボクが主役と認識していた)次女のローラは、原作者であるローラ・インガルス本人ですから、きっと自身の体験に根差した物語です。このドラマの舞台は19世紀後半の西部開拓時代。調べてみると、そうです、ローラとグランマ・モーゼスは同じ時代に生まれ育った同世代だったわけです。

そんなこともありボクは、子供の頃に(テレビで)観た大草原の暮らしを、この歳になって見る絵画のなかに見出して、懐かしく思ってしまったのかもしれません。まるでボクがこの農場に暮らしていたかのように。

古き良きアメリカ、普通の人々を描いた絵画(いや、イラストか)といえばノーマン・ロックウェル。その作品は、きっと誰もが目にしたことがあるはず。それ一枚を壁に掛けるだけで、ノスタルジックなハンバーガーショップが出来そうです(笑)。幸せな気分になる絵が多くて良いですね。でも、それより少し前のアメリカの情景を描くグランマの絵画には、また違った、心の別の場所に訴える何かを感じたというわけでした。

そういえば、もうひとり画家の話。昨年リフォームをご一緒した方から、スウェーデンの画家カール・ラーションを教えられました。購入&リフォームの際に、お好きな画家を挙げてくださったわけです。

こちらもまた、スウェーデンで人気のある画家。北欧家庭の日常や室内の風景、屋外での柔らかい光や風を感じる風景と人物、それらが幸せな空気感とともに描かれています。

もちろん物件選びやリフォームにあたって、その絵そのままをカタチにできるものではありません。だからこそ却って、ラーションの絵を見ながら、その方が思い描いているだろう空間や陽射しの質感を想像する機会を持つことができました。

果たして、たっぷりの陽射しと手触り感を纏って完成した室内は、「ラーションの絵画と似て非なるもの」ではなく、反対に「ラーションの絵画とは非なるも似た雰囲気」を感じるものになったと(ボクは勝手に)思います。

まあ実際のところ、ご本人がその点についてどう思われているのかは、ちょっとコワくて聞きそびれましたが‥(笑)

代々木の杜から

正面に見えるは代々木の杜

ここはどこ?

実はウチの旧事務所。創業時から10年間に亘って、渋谷区代々木を本店所在地としていました。

写真データを整理していて見つけたもので、心なしかセピア色(データだからあり得ないが‥)。2009年の入居後間もない頃のものでしょう。まだ何もありません。‥というか、10年経っても何もないまま、様子も殆ど変わりませんでしたね(笑)。

ともあれ、これは当時の写真。窓の外、左隅にチラと見えるのは代々木の通称ドコモタワーです。このタワーはデザインが素敵で、基壇部は太く大きく、高層部に向かって段々に絞られています。そう、まるでマンハッタンで初期に建てられた高層ビルディングを彷彿とさせる、ちょっとクラシカルな印象があるのです。

夕闇が迫ると、窓外にこのタワーのシルエットが浮かび、その左手奥には西新宿高層ビル群が煌めいて見えました。たくさんの社員が集って働き、遅くまで灯りの消えない(自身もそこにいたはずの)ビル群を遠くに眺めては、一国一城の主(古っ!)になった感慨と、その裏腹に雑居ビルの一隅でポツーンと独りに、何とも言えない気分になったことを思い出します。‥これまた今でも変わらないのですが。

さて、この事務所のど真ん中に鎮座するのは、杉の厚い天板。長さは2枚合わせて4m超あり、事務スペースと接客スペースを連続させた大テーブルとしていました。今、これを眺めていて何か見覚えがあるなと思ったら‥。

そう言えば、昨年の物件(自社販売とリフォームサポート物件の両方)で造作したのが、長さ4m級キッチン。コンロやシンクだけでなく、家事や軽食など多用途カウンターを付設する木製大型天板です。旧事務所のレイアウトとなにやら似ています。どうやら「バーン!と長いの」が好きなのは当時から変わっていないようです。

それを言うなら、この旧事務所。床も杉無垢材を貼っているし、壁は漆喰のDIYです。なんだ、今のウチの物件と同じじゃないか。

ウチはまだ13年、老舗ではありません。でも先日の投稿でも挙げた、老舗を揶揄する「名物にうまいものなし」ではないですが、同じに見えながらも変わっていかなければいけませんね。

先日、僕より少し若い知人から連絡がありました。大手を辞めて会社を興したとのこと。そして、なんと偶然にも事務所は代々木に置いたというのです。手探りで、緊張した面持ちで一歩一歩確かめるように進むさまが、とても懐かしく感じられます。相当の覚悟を持ってひとりで歩き始めた、ボクの若い友人にエールを送りたい。「がんばれ!オイラも思い新たにガムバルぞ!」 年明けの青い空を仰ぎ、そんなことを思ったのでした。

あ、ちなみにボクの現在の事務所は代々木にはありません。いまはウルトラマンの街ですからね。じゃぁねー

杉の恵み

花咲き心躍る春を用意するのは、純白の雪に覆われる、秋田の厳しい冬‥。

これは、秋田の酒造会社がラベルに載せた紹介文の書き出し。凛とした情景と空気感、そして春の芽吹きさえ予感させるようだ、とボクまで心が躍る一文です。

わが家の食中酒(兼料理酒)として長らく活躍しているのが、この酒造会社の普通酒。きっかけは以前通っていた庶民的、且つ清潔感漂う割烹にありました。そこで出す日本酒はここの本醸造のみという潔さ。主役はあくまで料理、それに寄り添うのはこの酒、ということでしょう。今はそういうのは流行らないのかもしれませんね‥(笑)

そんなことで、美味なるも潔い店の流儀に感じ入り、二十年来(家では)これに決めた!となったワタクシ。キリッと北国の冬が醸す酒×お弟子さん達の所作も凛々しい割烹。酒に不案内のボクはイメージ優先。なんの疑いもなく旨く感じるものです。

さて、そんなご縁のある秋田について、杉の話をふたつ(どんなご縁だ)。

まずひとつは、何年か前に発売されて以来、気になっていた「秋田杉GIN」というリキュールです。日本三大美林のひとつと言われるのが秋田杉。その秋田杉の香りを閉じ込めたジンだというので興味津々、試す機会を窺がっていました。というか、サッサと買えばいいだけなのですが。

ご存知の通りジンは、穀物原料のスピリッツに植物の香りを溶かし込んで蒸留した酒類です。つまり香りの容れ物か。ジンに共通する規定はふたつ。ジュニパーベリー(という実)で香りをつけること(これがジンの根幹ネ)、度数37.5度以上であること。だそうです、これだけ。なので、日本らしい香りを重ねていくこともできるのですね。

ということで僕の、北の森林が香るクラフトジンとの邂逅‥。正月気分も相まって、口中を清々しい香りが抜けていきました。

もうひとつの秋田杉ハナシは、写真に見える(寅も載る)お櫃(おひつ)のこと。

時は遡ります。会社は辞めたものの、まだ先は見えず、少しの希望と多くの不安を抱えていたころ(今も変わりませんが‥)。

首都圏の百貨店を実演販売で廻っていた、わっぱ製造老舗の名工の前で足を止め、お話しを伺いました。樹齢100年以上の秋田杉ならではの木目細かな柾目、放たれる森の香り、手仕事の美しさ‥。何かを手探り中のボクはすっかり目と心を奪われ、気付けば虎の子の商品券(ウン万円‥)を総動員しての購入となりました(そんなことしている場合なのか‥)。

使い続けて10数年。無塗装のお櫃は、ごしごし洗って乾かして‥とラフに使っています。味わいを増した木肌には黒ずみや凹みがあるものの、ふわり杉らしい香りと吸湿性は変わりません。無塗装の無垢材は思いの外に丈夫、使ってナンボです。

そして今、リフォームの際によく使う床材も杉無垢材。地産地消ならぬ、近(所)産近消の杉材は、ご近所の奥多摩産を多用しています。

そんなこんなで、あれこれ続く杉との縁。今回は杉づくしのお話でした。

いやー、ジンが間に合って良かったわ。お櫃の上にちょこんと寅さんだけでは、ちょっと可愛すぎますからね。