杉の恵み

花咲き心躍る春を用意するのは、純白の雪に覆われる、秋田の厳しい冬‥。

これは、秋田の酒造会社がラベルに載せた紹介文の書き出し。凛とした情景と空気感、そして春の芽吹きさえ予感させるようだ、とボクまで心が躍る一文です。

わが家の食中酒(兼料理酒)として長らく活躍しているのが、この酒造会社の普通酒。きっかけは以前通っていた庶民的、且つ清潔感漂う割烹にありました。そこで出す日本酒はここの本醸造のみという潔さ。主役はあくまで料理、それに寄り添うのはこの酒、ということでしょう。今はそういうのは流行らないのかもしれませんね‥(笑)

そんなことで、美味なるも潔い店の流儀に感じ入り、二十年来(家では)これに決めた!となったワタクシ。キリッと北国の冬が醸す酒×お弟子さん達の所作も凛々しい割烹。酒に不案内のボクはイメージ優先。なんの疑いもなく旨く感じるものです。

さて、そんなご縁のある秋田について、杉の話をふたつ(どんなご縁だ)。

まずひとつは、何年か前に発売されて以来、気になっていた「秋田杉GIN」というリキュールです。日本三大美林のひとつと言われるのが秋田杉。その秋田杉の香りを閉じ込めたジンだというので興味津々、試す機会を窺がっていました。というか、サッサと買えばいいだけなのですが。

ご存知の通りジンは、穀物原料のスピリッツに植物の香りを溶かし込んで蒸留した酒類です。つまり香りの容れ物か。ジンに共通する規定はふたつ。ジュニパーベリー(という実)で香りをつけること(これがジンの根幹ネ)、度数37.5度以上であること。だそうです、これだけ。なので、日本らしい香りを重ねていくこともできるのですね。

ということで僕の、北の森林が香るクラフトジンとの邂逅‥。正月気分も相まって、口中を清々しい香りが抜けていきました。

もうひとつの秋田杉ハナシは、写真に見える(寅も載る)お櫃(おひつ)のこと。

時は遡ります。会社は辞めたものの、まだ先は見えず、少しの希望と多くの不安を抱えていたころ(今も変わりませんが‥)。

首都圏の百貨店を実演販売で廻っていた、わっぱ製造老舗の名工の前で足を止め、お話しを伺いました。樹齢100年以上の秋田杉ならではの木目細かな柾目、放たれる森の香り、手仕事の美しさ‥。何かを手探り中のボクはすっかり目と心を奪われ、気付けば虎の子の商品券(ウン万円‥)を総動員しての購入となりました(そんなことしている場合なのか‥)。

使い続けて10数年。無塗装のお櫃は、ごしごし洗って乾かして‥とラフに使っています。味わいを増した木肌には黒ずみや凹みがあるものの、ふわり杉らしい香りと吸湿性は変わりません。無塗装の無垢材は思いの外に丈夫、使ってナンボです。

そして今、リフォームの際によく使う床材も杉無垢材。地産地消ならぬ、近(所)産近消の杉材は、ご近所の奥多摩産を多用しています。

そんなこんなで、あれこれ続く杉との縁。今回は杉づくしのお話でした。

いやー、ジンが間に合って良かったわ。お櫃の上にちょこんと寅さんだけでは、ちょっと可愛すぎますからね。

Facebooktwittermail