秋は夕暮れ

次の一節、おぼえていますか。若い頃にそらんじたことがあるかもしれませんね。

秋は夕暮れ。夕日の差して 山の端いと近うなりたるに 烏の寝所へ行くとて 三つ四つ 二つ三つなど飛び急ぐさへ あはれなり。まいて雁などの連ねたるが いと小さく見ゆるは いとをかし。日入り果てて 風の音 虫の音など はた言ふべきにあらず。

ご存知、清少納言の枕草子です。中学生の頃、教科書に載った”春はあけぼの‥”を気に入って、(平易な)枕草子を一冊小遣いで買いました。きっと、秋は夕暮れ、みたいな詩情あふれる文章が満載なのだろうと思って‥(普通、買わないよなぁ)。

ところがというか、やっぱりというか。残念ながら僕にとってその殆どは面白いものでなく、そのまま背表紙を見せて本棚の風景となったわけで。その頃はそんなのばっかりだったなぁ。勇んで買ったLPレコード、繰り返し聞いたのはシングルカットの一曲だけ、みたいな。要は、まだ著者やアーティストを味わうチカラが備わっていなかったのだ(今も変わらない)。とほほ。

上の写真は、秋の夕暮れ。既に夕日が、山の端(”春”にでてくる”山ぎわ”は空の端なんですよね)の向こう側に消えた蒼い時。

都心にも近い割りに、秋は夕暮れ‥が似合う多摩丘陵。里山の雰囲気がそこここに見られ、起伏の多い地形が夕闇に小山を浮かび上がらせます。(ある住宅地には夕景にシルエットとなるお寺の五重塔があります、まるでいにしえの都‥)

この季節、家路を急ぐほんの一瞬、そんな空を仰いで立ち止まってみてはどうでしょう。

なお、空が赤く染まった夕暮れの一瞬をマジックアワーと呼ぶそうです。素敵な呼称です。それもいいですが、空の赤みが取れて、吸い込まれそうに蒼く透き通るその後の瞬間が僕は好きです。写真はそのイメージ、これはブルーアワー。

マジックアワーと言えば、三谷幸喜さんの映画がありました。夕暮れ時のその一瞬は、映画撮影者にとっても大切なのだとか。たしかに一日に一回、一瞬だけのチャンス。それも毎日あるわけでない‥。何度か、監督ご本人をウチの事務所がある祖師谷から成城のあたりでお見掛けしました。近所に撮影所がありますしね、それともウルトラマン商店街がお好きなのでしょうか。

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