風景をつくるもの

私鉄沿線、都心近郊の駅近く。中心部の賑わいの一本外側を南北に走る直線道路です。が、よく見慣れた街の風景とは何かが違います。

ある意味無機的ともいえるコンクリート打ち放しの建物が道路両側に並ぶストリート。ただし、(素人の僕が見ても、どの建物も似た意匠であり)質感と緊張感を持ったコンクリート建物には、何らかの連続性を感じます。

ずいぶん前は、この真っ直ぐな道路が抜けておらず、別の道を迂回していた頃の記憶があります。このエリアを久しぶりにクルマで通り抜けて、すっかり変わった街並みに今さらですが足を止めてみました。

ストリートの一角には、街に開いたパティオを店舗が抱き込むように囲む棟が2棟、向かい合っています。上の写真でいうと右手前のエリア。同じコンクリートでもちょっと趣きが違い、通りの緊張感を柔らかく緩和しているように見えます。

少しだけ調べてみました。やはり、土地所有者の強い意思が実現させた空間だったのですね。

元々は農地の区画と思われる、細長く広大な敷地。この敷地を対角線上に貫通していた都市計画道路が、ちょうどバブル時代に事業決定されたのです。道路両側に細切れの三角地ばかりが残ってしまう上に、重い相続税負担も重なる状況。土地の切り売りで決着したい衝動に何度も駆られたそうです。

たしかに今見ても、難しそうな敷地形状が続いています(鉛筆のような敷地もあるゾ!)。それでも、粘り強く行動し実現した、沿道型の街並み。その意思を支えたのは、代々の土地と、そこに新たに現れる街並みへの想いだったのでしょう。

そしてその実現のために、オーナーが年月をかけて協力を取り付けた先が、安藤忠雄建築研究所だったことが肝です。オーナーは以前から安藤建築のファンでもあったとのことです。

幾つかのウェブサイトを覗いてみました。この手のモノは当然ではありますが、建物と街並みに対して(専門家から素人まで、勝手に‥)賛否両論がたくさん上がっています。僕はこの街並みにコメントする立場ではありませんが、それよりもこの街並みを創りだしたオーナーの熱量を想像します。

この沿道には、意匠こそ統一感あれど、資金確保のための民間分譲マンションから、行政を巻き込んだ劇場・保育園、スモールオフィス、店舗までいろいろな要素で構成されています。オーナーの粘り強い働きかけによって、当初想定を超える複合的な街区になったと安藤さんがコメントを寄せていました。

そういえば、この街区を評して、”安藤建築が嫌いだ、こんな無機質なところに住んだら人間まで無機質になると思う.団地を思い起こさせる”と酷評するコメントを見掛けました。もちろん、好き嫌いはご自由です。でも、時間を掛けて樹々が茂った団地は、決して無機質とは思いません、僕は。表層的にはそう見えるのでしょうか。

いずれにしても、この街区の賛否はともかく、(特に個人の場合には)これだけ頑張らないと何らかの風景は出来ないのですね。ところで、風景や街並みってなんでしょうか。綺麗に計画されて整ったもの?一人ひとりの暮らしの積み重ねがつくるのもの?

あ、そうそう書き忘れました、ここは京王線の仙川エリア。街区のなかに民間マンションは2棟、同じ大手不動産会社による分譲です。2棟とも南北に長い敷地に沿って、東向き住戸と西向き住戸が廊下を挟んで向かい合っています。好立地で意匠性の高いマンション。価格もそれなりですが、この建物でどう暮らそうかと妄想を掻き立てる、リフォームし甲斐のある物件ではありますね。

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