2戸1世帯

竣工から約50年以上が経ち、長い歴史を持つに至った団地。なかでも日本のそこかしこで旧日本公団が建てたものが群を抜いて多い(はず)。

(現在の感覚としては少々)狭いながらも、ステンレス流し台やダイニング(食事室)など洋風形式を取り入れた居住スタイルは、よく練られた新しいものでした。経済成長とともに大量に湧き出たサラリーマン層を中心とした、マイホームの受け皿となっていったわけですね。

特に大型団地の場合は商店街まで予め計画され、学校も近接していました。そんな(白紙のキャンバスに描かれた)夢のような街が登場したのですから、持ち家購入世代の視線には熱いものがあったでしょう。どこか今と通じるものがありますね。そうです、都心のタワーマンション‥。熱視線の向かう先は、そうやって時代と共にぐるぐると変遷しながら廻っていくのでしょう。

そんな団地、工事のご挨拶などで出向いた際、たまに見掛ける事象があります。それは、階段室で向かいあった住戸双方に掲げられた同じ苗字の表札。

つまり、(偶然同じ苗字だったという以外は‥)隣接住宅2戸持ちだということ。ピンポンして、ご不在だな‥なんてやっていると「あ、ウチですか?」なんてお向かいの玄関から、お顔が出てきたり。

以前お会いした方は、たしか4住戸所有されていて、自己居住用だけでなく賃貸用にしているとか。お子さんが複数いるし、遠い先の話だけど建替えまで見据えて‥とのことでした。なんか、一般的なマンションではあまり見掛けない感覚ですね。足らぬなら、繋げてしまえホトトギス‥。

ご存じの通り、隣り合う住戸同士の壁は共用部分。たとえ両住戸を所有していても、(区分所有法上の合意形成がなされない限り)壁を壊して出入りはできません。構造的には問題がないとしてもです‥。

ということで、なんとバルコニーで行き来する例を見たことがありました。住戸間のバルコニー隔て板を外して、サンダル履いて隣の住戸へ行くわけですね。安藤忠雄さんの初期作「住吉の長屋」ではトイレへ行くのに傘を差します。それよりは随分とラクチン。それでも暑い寒いがあり、ちょっと外の樹々に目を止めたり、夜風に当たって虫の音を聴いたり。風流、と言ってしまっていいですかねぇ‥。

この当時の団地で多いのは50㎡前後の住戸。これを1ユニットとして、2ユニットでゆとりあるファミリータイプ。3ユニットでは2世帯住宅でしょうか(さすがにないか‥)。

ハハハ、まるでレゴブロック。そういえば会社にいた頃、これからの事業をあれこれ語るなかで先輩が、上下左右のユニットを自由に接続して1住戸にできるマンション、なんて構想(妄想)したりしていました。それがリアルに実現出来るのが団地(かもしれない)ですね。

ナンチャッテ‥

ところで、表題の「2戸1世帯」という言葉はご存知ですか。ご存知ないですか‥、それはそのはず。

当時の団地設計者達は、将来発生する上述した住戸連結での用途を見越しており、秘密裏にそれを「2戸1世帯」と呼んでいたそうな‥

‥訳はなくて、たった今ボクが考えた造語ですからねー。

おしまい。

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