長い休暇

ふと気づいて顔を上げ、あたりを見渡すと、もう4月。自身の入学・卒業式もなければ、人事異動とも無縁になって久しいけれど、春だけは長い間に馴染んだ条件反射的な感傷があるような。

細目をして、随分と昔の春を思い出してみると‥。中学1年は初めて担任を持つ男性教諭。先生手づくりの学級通信の題名は「時代」。そう、あの歌姫の‥。中2の担任も若い英語の先生だったのだけど、初ホームルームはいきなり黒板に「クラスの標語は All for one , one for all です」。そして授業始まって早々の廊下で「いけだ!」と振りむきざまに「Heaven helps those who help themselves!‥意味わかるか?」。「‥おれ、頼ってないスけど、何か?」とまぁ、先生も生徒も熱量高く、暑苦しい80年代初頭。都心のある中学校での記憶です。

ボクがそんな感じだった頃に出たアルバムが売れ続けているという話。それは大瀧詠一さん。印象的なジャケットと相まって、あの時代の風が抜けていく。ちょうど芽吹きの緑と空の青、そして風が光る(「寒風と共に去りぬ」)この季節だからこそ、余計に眩しく感じるのかも知れません。

でもそんな作風が大瀧サウンドの芯ではない、と佐野元春さんは言います。歳の差はあるも当時のアルバムに参加していた佐野さんは、大瀧詠一とはロックンロールであると。R&B、R&R、SOUL‥深く掘り溜めた井戸の中から、(僕のような素人が知る)爽やかな日本ポップスサウンドが生まれた訳なんですね。これがプロなのだ、きっと。

大瀧さんといえば、松本さん、細野さん。松本さんがアルバム「ロング・バケイション」と今の時代について、こんなことを語っていました。

文化とか経済とかがピークを、峠を越したんだと思う。みんなもうそれほど新しいものを欲しがっていないんじゃないか。実際、新しい技術も出てこないし。科学とか技術の限界があって、そういうものを通り越して、こういうロンバケへの憧れが残っているんじゃないかな。長い休暇。必死に働いてもしょうがないという‥

長い休暇‥。たしかにそんな言葉に改めて心惹かれるのはボクだけではないはず。どこもかしこもピリピリしていて、なんだか疲れるしなー。(現実の長い休暇は取れる気がしないケド‥)

そんな大瀧詠一さんはもう数年前に亡くなり、そしてその「分厚い音づくり」の手本だったあの(プロデューサー)フィルスペクターさんも亡くなったという記事を最近目にしました。もうこの世にはいないけれど、それらの音楽は残り、次の世代が引き継いでいく‥。

いつもより少し早い桜の花が、舞っています。創業から10年間、代々木公園近くに事務所を置いていました。新宿への道すがら、お寺に掲げられた「今月の言葉」を横目に歩いたものです。なかでも、たびたび口をついて出てくるのがこの句‥

散る桜、残る桜も、散る桜 (良寛和尚)

ある種の諦観と、その先に想う希望。なんだろうな―この感じ、と思ったら、そうか「ライフイズビューティフル」!、となぜか映画を思い出したのでした(なんだかよう解らん私見ですが‥)。

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