梁を越えて

Q.「何故、貴社の新型車は年々大型化しているのか」

A.「人は年々大きくなっている。だからクルマも大きくなるのだ‥。」

ん?‥人は依然として日々デカくなっている。 そうだったのか‥。

随分前のこと、バイエルンにある自動車会社と記憶しています。経営幹部が新車発表に際して発したコメント(ほぼ意訳)です。このメーカーの Evergreenである、六●●のカローラとも呼ばれた3シリーズを筆頭に、少し前のモデル達の小さくてシュっとしたスタイルが個人的には好みだったのだけれど‥。どうやら同社は人類の肥大化と歩みを共にすることにした、ということのようです。(衝突等の安全基準が厳しくなる中、本当は止むを得ないコトだったのでしょう。最近は、ダウンサイズに舵を切るメーカーも出てきているようですね‥さすがに人類の巨大化をクルマが追い越したのか‥)

さて、人類のこれから‥、この迷題は置いておこう。

確かに戦後の日本人は大きくなりました。それを身の周りで感じるものの一つが往年の団地の室内。

近頃、昭和40年代の団地を連続して幾つも手掛けています(実はウチでリフォーム販売した最初の住戸も団地でした。何度か触れていますが、あの稀有なゆとりある敷地は素晴らしいと思うのです。)。色々と制約が有りながらも、ワイドスパンの南北開口という基本プランの良さと相まって、気持ちの良い住戸に変身します。が、それにしても住戸内を貫く「梁(はり)」は確かに低ーい。平均身長の男性でも、ちょっと腰を屈めるか、もしくは頭を下げたい程‥。その様子を見ていると、戦後日本の長足の歩みを思い起こします。

梁というのは鉄筋コンクリートの構造躯体であり共用部分ですから、当然撤去することはできません。そしてその梁に沿って居室が分かれる(箇所が多いので)ので、梁の下を引き戸や間仕切りが通る場合が多い。するとリフォームの際には(梁の高さに合わせた特注寸法の)洋風ドアを設置するのが普通に行われます。ですがそのドア寸法は、現代の室内ドアにしてはちょっと低い感じが‥。

そこで上の写真。

大きな室内窓の上部には梁が(左側ドアの奥まで)通っているのが見えますね。この室内窓の部分には、元々は大きな引き違い戸があり、廊下から台所への出入りをしていた場所です。その約2m幅の出入口を完全に閉じて壁をつくり、ガラスを嵌めました。背の高い新設ドアは、梁と重ならない場所としています。

こうして、リビングドアは梁下高の制約から自由になり、梁も「ただの白い梁」に徹することができる。室内が少しだけ縦方向に伸びやかになった感じ‥。たったそれだけ、ではあるのですが、そんなことが嬉しいなぁと思うのでした。

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