武骨な道具

上面全体が鋳鉄製の五徳(ゴトク)でガードされているこのガスコンロ。一見すると業務用かと思うゴツい表情をみせています。でもこれは一般家庭用、しかも国内メーカー製です。

市場に出るほとんどの新製品は、美しいガラストップと華奢な五徳の洗練されたデザイン。家電製品のようにアプリ連携まで出来て、手入れの容易さも進化しているようです。

そんな中、このガスコンロは進化もせずに(細かい改良があるのかもしれませんが)販売が続いています。もう15年位になるでしょうか。いつ生産中止になってしまうだろうと心配しながら、リフォームするマンションにときどき採用しています。あぁよかった、今回もまだ売っていた、と。

この全面を覆うゴツイ五徳は頑丈でフライパンの上下動にも耐え、熱い鍋の行き来も自由。天板はタフなステンレス、ツマミも鋳物(たぶん)。大火力バーナーも備えています。まあ、本格志向の男子が好むデザインとスペック、と言ってしまえばそれまでかもしれませんが‥。

使い続けて味が出る道具たち。長く使ってもヘタレず、傷だらけになって、経年変化に耐えるモノ。

こういうの好む人って、部品交換しながら物理的に使えなくなるまで使い倒す人が多そうです。ちょっとの汚れは気にしないけれど、適度にケアをしながら傷だらけになっていく。ほかに欲しいヤツがないんだよ、って言いながら。

そんな時、敵あらわる!そうです、修理用部品の在庫切れ。‥。もしくは超高額の修理代(買い替えの方が安いぢゃないか‥)。そして新製品への買い替えを勧められるのでした。こっちのほうがエコですし、と。

工業製品の定めですね。クルマも同様です。昨年僕も、約20年間乗り続けた一台をギブアップ。まだまだいけるぞ、という(言える‥)余裕のある方にお譲りしました。トホホ。

でも、旧き(古き?)も良いけど、新しきモノもいいですね。モノにとらわれ(囚われ)ず、モノを扱う。いつでも軸にあるのは、光と風が抜ける暮らしですから。

エントランスホールが欲しいわ

まことに残念ですが、こちらのマンションにはエントランスホールはございません。

残念でした。ついでに言うと、エレベーターもありません。敢えて言おう、なんにもないゾ!

コの字型に配棟された、真っ白な低層3階建て。敷地南東角には小さな提供公園(開発に際して事業者が行政側に提供する公園)があります。いいですね、雰囲気の良い低層マンションの基本形と呼びたいくらい。

僕が何度か言及している2戸1階段、両面バルコニーの物件です。それと、P・P分離ができる中入り玄関の住戸プランになっています。以前に、この中の住戸をリフォーム販売しています。落ち着いたプラン、そして窓外の緑と空が、”低層マンションに暮らしてる感”をいい感じで醸していました。

もう一度言いますがエレベーターはありません。3階建てにEVは必要か、これはビミョーですね。今の新築マンションでは付けるのでしょう。「エレなしマンションとかあり得なーい」って言われますから‥。かといって全部の2戸1階段ごとに、それぞれEVを設置するという根性は、事業者にも購入者にもないでしょう。(※かつて僕は、そんな根性の入った低層マンションに暮らしていましたが、それはもう‥)

なぜ根性が必要かと言うと。事業者にとってはそのすべてが販売価格の上昇として跳ね返ってくる。そして購入者側は「いいのわかるけど価格高いわー、維持管理も高くて無理ムリ」となるからです。要するに、残念ながらそこまでやってもウケないということ。(※EVは買うのも、維持するのも高いのです。)

だからEVを1機だけ置き、2戸1階段ではなく階段は全体で2ケ所程度。そしてEVホールから、各階(といっても3フロアだけだが)の北側にぐるーっと廻した開放廊下を通って各住戸へ。これで全ての導線をセキュリティライン内に置くことができ、エントランスとEV用のホールも必要となるのです。

そんなこんなで、また開放廊下に面した部屋があるマンションが出来上がりました。その開放廊下と玄関・部屋の間には、吹抜けと称するスキマを設けて、プライバシーに配慮したプランとしました、となるわけです。

両面バルコニープランが比較的無理なく出来そうな3階建てなのに、やっぱりEVと開放廊下の誘惑(誰が誰を誘惑するのか?)には勝てないようです。すると写真のようなシンプルな建物が、ますます貴重に思えるのでした。

サッシモンダイ

今回は工事中の写真です。マンションとしては比較的古い(あくまでも”比較”的な古さであり、耐震診断済の堅牢な建物です)この建物、断熱対策をした上でボードを貼ったところです。

初期の集合住宅では、躯体に断熱が施されていない場合が多いため、状況に応じてこのような工事を行います。ちなみに、断熱処理は躯体外側の方がずっと効果的ですが、日本の大部分のマンションは内断熱なんですね。(これは別の機会に‥)

断熱されてなくても、季節に合わせた暮らしを皆さんされてきました。窓を開ければ風が抜けますし、冬の結露も防げます。ですが、暮らしも気象条件も激変する昨今、リフォーム工事は室内環境を整えるいいタイミングです。

いずれにしても、壁が原因の寒暖差はこの断熱処理によって多少緩和されるでしょう。でも実際には、室内環境にもっと大きな影響があるにも関わらず、自分自身だけで解決できないのが「窓」なんです。マンションの場合‥。

殆どのマンションは管理規約において窓・窓枠(サッシ)は共用部分と定めています。共用部分とは区分所有者全員で(持分に応じた割合で)持ち合っている箇所のこと。なお、住戸内は当然自分だけで所有する専有部分です。でも困りますねー、ウチの窓を隣人が(持分の分だけ)使いたいと言ったら‥。そこで、”共用部分の専用使用権”という概念で解決。自分の窓を、専ら自分だけが使うこと(だけ)が出来るのです。パチパチ。なんだかなー

外気から受ける寒暖の影響は、大半が窓経由です。言い換えれば直接に窓・サッシを対策することができれば大きな効果がある訳なのですが、これ(交換)が難しい。というのがマンションの難しい問題。

モチロン、近年分譲された比較的新しいマンションでは窓・サッシも進化していますので、室内環境は良化していることでしょう。でも我らが(?)中古マンションでは、必要に応じて窓廻りの対策も考えたいところです。

そうは言っても実際のところ、多くの方は工夫をして現状のままで暮らして居られるわけです。言い出したら切りがないですものね。

中古マンションを購入してリフォームを検討する際、窓廻り対策は忘れがちです。それに、住んでみないとわからない部分とも言えます。また逆に、(見据えておけば)住んでからでも対策できる箇所でもあります。

あまり完全を求めず、でも窓のことを頭の隅に忘れずに置いておく。それがいいのではないでしょうか。具体的な対策はまたの機会に書いてみます。

あ、最後に。写真右側の壁には穴がたくさん開いています。有孔ボードです。どんなふうに使いましょうか?

ひつじがいる暮らし

この撮影のために、ニュージーランドから羊(のお土産)の皆さんにお越しいただきました。真夏の日本にようこそ!

つまらなくて、すいません。ちなみに写真のカーペットもヒツジ100%、英国産の羊毛を使用しています。同じく英国連邦の国から来た羊さん達をお出迎えです。高価なものではありませんがブリティッシュウール、そう聞くと床材というよりセーターみたいですね。

さて、羊も黙るニッポンの夏、酷暑の夏。なにもウールのハナシを、こんな季節にしなくてもいいのに‥。

マンションの2階以上と言えばカーペットが主流だった昭和の後期。その後、フワフワとした遮音材を貼ったフローリング建材に主役を取って代わられました。軽量衝撃音、つまりスプーンをシャリーンと落としたような音を木製床(?)が抑え込むことができるようになったとも言えます。直貼り遮音フローリングですね。

当時、室内環境の汚染によるシックハウスが大問題となり、関連してハウスダストの温床であると疑いをかけられたカーペットはさらに苦しい立場に置かれたようです。疑義はさて置き、少なくともカーペットがダストの舞い上がりを抑制することは確かです。そのチカラはフローリングの比ではありません。砂漠の民が、激しい寒暖差のある暮らしのなかで生みだしたカーペットですものね。

カーペットのなかでも僕が好きなのはウール素材。その機能性についてはいろいろと語られているので割愛します。夏は暑そうに思えますが、空気層を含んで意外にも素足にサラッとしてベタベタしない。冬は暖かく、夏はそれなりに。僕が好んで使う無染色のナチュラルなカーペットは、畳や無垢フローリングに近い天然素材の仲間という位置づけです。

また、同じ天然素材の床材候補であるザイザル麻と比べても汚れが付きにくいし、チクチクしないので使いやすい。ラフに扱えて、比較的安価なものもあるので貼り替えも容易です。寝室には結構いいと思うんですけれど‥。ひつじ1頭、いかがでしょうか。

窓から見えるものは

日本の住宅は可能な限り南向きです。マンションで言えば、南間口を6m程度確保して細長い箱をズラッと並べるのが基本。あとは地形や法規に従って、たまたま広い南間口が確保できたり、東西向きがおまけで付いたり。また、一部が欠けてルーフバルコニー付住戸となったりするわけです。

見渡す限りビル、マンション、戸建てが続く首都圏の街。ビルは例外として住宅は「南向けーっ、ミナミ!」しています。だから自分が見る景色も建物北側、影ができる面です。素敵な住宅地も半数の住宅は、道路も挟まず南側宅地の背中と向き合います。(敷地が広ければそうでもないのでしょうが、それは無理が‥)

人が集まって住むということは、そういうことなのかもしれません。欧州の街区型住宅では道路に面して東西南北と四方を向く分だけ開放的ですが、それでも結局は道路の向かい側から誰かがこっちを向いて微笑んでいる(気がする)わけですから。

自宅の窓から見たいものは何ですか?青空が見えるならば、その下の建物裏側は気にならないかもしれません。でも街中では、窓で切り取られた景色が建物だけの場合も多いように思います。大規模マンションの中層階もそうですね。

僕は何を言いたいのか。そうです、緑の景色がある低層階住戸はおすすめだということ。レアなケースでは、道路の向こうが公園や緑地であるという恵まれたマンションも探せばあるでしょう。そうでなくても写真のように、ゆったりした敷地に豊かな植栽が計画されている大規模団地もあります。

草木や樹々が視界に広がるのは、せいぜい3~4階程度でしょうか。街の財産である公園緑地、手を掛けて管理された敷地内のグリーン。これらを居ながらに楽しむことができる暮らし、いいですね。そんな住戸を探して、リフォームしてみませんか。

すまいは夏をもって旨と‥する?

長雨の時期が明けると、くっきりとした空に季節の急展開を感じます。梅雨空に聞こえていた涼し気な声はヒグラシでしょうか、梅雨明けと共にこちらも一転、夏の暑さを演出するじりじりとした蝉たちにバトンタッチされました。それも随分と急に。ミンミンゼミかな。これからアブラゼミが登場すると、聞くだけでもう汗が出てきます。

勝手なもので、鬱々として梅雨明けを待ちわびていたのに、もう夏の暑さに気を揉んでいるわけですね。

そんな夏と家について、兼好法師さんは、家のつくりは夏に心地よいのが良い、冬はどうにでもなるから。と書いていますね。また、天井は低いほうが良い、溜め水よりも浅くとも流れている水が涼し気である、とも。

当時と比べて、現代の住宅においても夏を旨とするべきか否かを論じても、答えはなかなか出ないのでしょう。地球環境、そして住居自体の構造や環境も違います。中途半端に密閉性が高いマンション暮らしは、冬の寒さも封じ込めてこそ健康住宅足り得るのでしょうから。

兼好さんの言葉から思うのは、技術よりも心の有りようについて。心持ちで涼しさを得ることの大切さです。

マンションですから、住戸の条件は完全には変えられません。住戸ごとに規約などの範囲で上手く擦り合わせていくしかない。窓の位置はもちろんのこと、庇、サッシ、ガラス、網戸。断熱の有無、方法も然り。そもそも蓄熱するコンクリートを外側に現した建物なのですから、どこかで折り合いをつけていかなければ。

ですから、気持ちの良い住戸を選び、専有部分内で間取りの工夫し、そして目や心が涼やかになる設えをする。時代は移っても、心地よく感じる心は、技術ほどには変わっていないのだろうと思います。

それに今は、高性能なエアコンがあるんですよ。目にも涼し気なツマミとビールでもあれば上等です!そんな結びでは、身も蓋もありませんが‥。