ドラえもんのふるさと

ドラえもんのふるさとは、おそらく未来のどこか。漫画を丹念に読み込めば描かれているのかも知れませんが、僕にはわかりません。

でも、現世(ちょっと違うか?)でのふるさとは多分、川崎市多摩区。東京から多摩川を渡ると見えてくる、多摩丘陵の端部です。作者の藤本弘(藤子・F・不二雄)さんが長く暮らした緑濃き丘の上、此処こそがドラえもんのふるさとなのではないでしょうか!

もちろん都内の仕事場において、数々の作品が実際に生み出されたのでしょう。しかし一方では、静寂の森を臨む自宅での時間が多くの着想を生み、長年の創作活動を支えてきたに違いないと(勝手に)想像します。

そして何よりも、同じ多摩区内には「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」があるのです。これをもって、この地はふるさとと言ってもいいですよね。

と書き進めながら、はじめて知ったことがありました。なんと、藤本さんの出身地である富山県高岡市には「藤子・F・不二雄ふるさとギャラリー」なるものがあるのですね。少年時代を育んだ水と土がある場所、そこはドラえもんにとってもきっと故郷ですね、納得。

だとすれば川崎市多摩区は、第二のドラえもんのふるさと、でどうでしょう。いずれにしても手前勝手な話ですが‥‥。

ところで、多摩川から生田緑地へと連なる多摩区中心部は、ここ数年で大きく変わりそうです。登戸駅周辺の区画整理が進行中。隣駅向ヶ丘遊園ではダイエー閉店と不動産会社への売却が告知されました。更には、生田緑地に連なる向ケ丘遊園の跡地計画も再び動き出しています。

他沿線に比べのんびりとしていて、水と緑に恵まれたこの地域。この地の変化を、ドラえもんと一緒に楽しみに眺めていることとしましょうか。

杜の都の森

残念ながら杜の都ではありません。代々木の杜から、新たにニョキッと生えた定借タワマンを望む。

中低層マンションを好んで手掛けていますが、一度だけタワーマンションで暮らしました。

ちなみに、僕にとってタワーと言えば、中央区佃の大川端リバーシティ。まるでマンハッタン(?)のような美しい夕景のシルエット、隅田川と下町。日本らしいコントラストのウォーターフロント開発に、心がときめいたものです。佃といえば佃煮、そして徳川と共に江戸入りした漁師の町と聞く。いいじゃないですか。

話を戻します。僕が居住したタワーは杜の都の外れにありました。旧市街の外側にある広大な森のすぐそば、バブルの頃に計画された31階建タワーマンション。転勤先での借家です。

借家探しのため仙台へ。地元の業者さんのアテンドで候補物件をひとまわり、そしてため息。仕事柄(いやそんなことはない、個人的な性質だろう)、借家とはいってもフツーの建物、間取りじゃないのがいいわけ。

もう他に無いのならば、と僕が取出したるはタワーの賃貸図面。「今からこれ見たいのよ」「えーっこれ不便ですよ!」「いいじゃないの、連れてって。」

かくして私はタワーマンションの住人となりました。

このタワーに目星を付けていた理由のもうひとつは、広大な森に近接していること。なんと最寄り駅は森林の向こう側で、霧の中を行く朝は最高に気持ちが良い。でも深夜はその真逆。こわいのなんの!普通、通れません。

ということで、夜は遠回りをして住宅地を抜けて帰ったり、バスに乗ったり、こわごわ森を歩いたり。それでも何とかやり過ごし、気持ちよく暮らすことができたのはやはり、緑あるのは七難隠す、と僕は思っているから。

でも、住んでいたのは3階部分なんです。ごっつい避難階段使ってました。エレベーターあまり乗らなかったな‥‥。

全然タワーマンションの話になりませんでした。間取りとか、眺望とか、共用部分にも触れなかった。ということで表題は、杜の都の”森”にしておきますか。

おけらの七つ芸

ちょっとピンボケ‥‥

畑でかわいい生き物を発見。おけらです。正しくはケラというのかな。

「ぼくらはみんな生きている♪ ‥ミミズだっておけらだってアメンボだって‥ みんなみんな生きているんだトモダチなんだ♪」と、ご存知の童謡に登場するおけらです。ちなみにこの歌「手のひらを太陽に」の作詞はアンパンマン作者”やなせたかし”さんなのですね。お若い頃(この歌1961年です)からの一貫した世界観です。

おけら、普段は全く見かけません。珍しいです。ジャガイモの収穫で土を深く掘り起こしたので、寝床や地下道ごと地上に引っ張り出してしまったのでしょう。ゴメンね。

黒目はクリクリ。前脚は水掻き、いや土掻きがモグラのようで、虫というより小動物のようです。手に載せると、一生懸命に指の隙間を進むべく土掻きを動かすので、くすぐったいのです。

地中を行く、地を駆ける、水中を泳ぐ、空を飛ぶ、壁を登る、鳴く、これだけの技を繰り出す様はまるで忍者か、君は‥。でも残念ながら、彼は多芸だけれど、器用貧乏。”おけらの七つ芸”と言われているのだとか。

なんでもできるけれど、決め手に欠ける。そんな器用貧乏も素晴らしいじゃないですか。

リベラルアーツ。話は飛躍し過ぎですが、幅広い(さらに深いほうがいいが)土台を築いた上にこそ、しっかりとしたものができる。

そんな引出しの多さは、その後備えることになるだろう専門性をきっと支えてくれるはず。住まいの作り手に置き換えるならば、暮らしへの豊かな想像力があってこそ、平面に描いた設計図が立ち上がってくるはず。僕は設計士でないし、図面は立ち上がってこないけれど‥‥。

そんなこと考えたこともなく大人になった僕は、今頃そんなことを思うのでした。

カリモク60(ロクマル)

写真中央は、カリモク60(ロクマル)のKチェアです。

カリモクとは家具メーカー。60(ロクマル)とは1960年代の意味で’60s。‥ということでいいのかな。

60年代からほぼ変わらずに生産され続けている、カリモクの原点とも言えるソファです。ナガオカケンメイさんというデザイナーとの出会いによって新たに60ブランドを得て、廃番寸前から復活を遂げるわけですが、その辺りはここでは省略。

このKチェアを起点にダイニング、デスク、ボードなどがフルラインナップされており、「ワールド」をつくることができます。写真はスタンダードな黒ですが、緑色のモケットなどはレトロ感満載です。そうです、旧い電車の座席だった緑色のアレです。

カフェ用のテーブル・チェアとしてよく見かけるKチェアですが、僕が手掛ける古い団地にも似合います。そもそも団地とこのチェアは、同年代に生まれた兄弟みたいなものですから。

畳にラグを敷いて置いてよし。板貼りに置いてよし。フルリフォームに置いてよし。と、団地になんでもよし。そもそも団地の始まりは和洋折衷です。だって「居室は全て和室」+「ステンレス流し付き台所兼食事室」です。

ちなみに写真の住戸も、以前は障子で部屋が仕切られた典型的な間取りでした。押入を撤去して現れた梁下部分に、ちょっと面白い収納兼引戸を造作しています。また、ソファの背中には空間を緩く仕切る白い壁が立ち上がっています。

Kチェアが似合うか、どう似合うか。そこからリフォームを考える、をやってみようと考えています。

シカクいのがお好き

 シカクくって、タベヤスイ?

「シカクくって食べやすい! 〇〇〇〇ソースやきそば!」というTVCMを覚えて、いや、知っていますか? あの濃い液体ソース、こどもの僕には異次元の味でね。後に登場した円盤状の未確認飛行物体も良いですが、僕は角型のアレが好きだったなあ。

さて、カップ焼きそばの角型or丸型はそれぞれお好みですが、分譲マンションのカタチはほぼ角型一択。そのほとんどが細長い長方形、あまり変化のない間取りです。皆さんどう思って購入されているのでしょうか?

Aさん「マンションって四角くて同じでツマンナイ、でも交通利便性優先したらマンションしかないわ」⇒ツマラナイことを認識した上で選ぶ方。

一方、Bさん「マンションって廊下に玄関ドアが並んでいるのが普通でしょ?」⇒ツマラナイとも思っていない方。

‥‥というか、そんなことを気にしているのは僕だけでしょうか。以前、豊かな空間を持つマンションは探せばありますと書きました。でも実際のところ、大多数のマンションは、中も外もほとんど同じ顔をしています。

それよりも購入の際に大事なのは、①駅からの距離、②坪単価、それに③内装状態‥。やはりマンションは、資産性で語られるコンクリートの箱なのでしょうか。※もちろん①②③は大事ですね。

でも、そんな四角く限られた空間であっても、いや何の変哲もない間取りだからこそ、自分らしく手を掛けて暮らしたいものです。事実、花盛りのリノベーション(と自他問わずそう呼んでいるもの)はそんなフツーの空間で華麗に展開されています。

冒頭の間取りは南北に大きく開口しており、フツーというよりは結構条件の良い住戸です。壁式構造ですが、ここ壁取れるの?みたいな箇所も見逃さずに取り込みました。リフォーム後販売の住戸だったので、水廻り配管位置までは変えていませんが、間取りや壁などは殆ど原型を留めていないんですよ。さて問題です、元々はどのようになっていたでしょうか?

1戸1エレベーター?

エレベーター降りると専用ホール。ペントハウスみたいですが、庶民派です。

以前に”2戸1階段”のお話をしました。覚えていますか?

そうです、向かい合う2住戸が1つの階段を使うマンションのことです。採光、通風やプライバシーが確保しやすく、プラン的にも良い。ですね。

なぜ再び2戸1の話なのか。それは、ちょっと面白い分譲マンションを思い出したからです。なんと1戸に1階段、というより1戸に1エレベーターです。要するにワンフロアに1住戸のマンション。かなりレアです。

僕が会社を設立した頃、ある不動産会社のマンション事業に関わりました。当時その会社は、全住戸に2つの玄関を設置するなど、単なる四角い箱ではない+αを生み出そうとしていました。そして僕が参加したのがワンフロア1戸で構成するマンションです。

2戸1階段を高層化した2戸1エレベーターでしたら、高グレードマンションで見掛けます。その場合の最上階2住戸分を占有するペントハウスが1戸1EVになることはあります。でも、本マンションのように全フロア1戸というのは珍しいです。だって、とても小さい敷地での事業でもあるということですから‥。

個人住宅を縦に積み重ねた集合住宅は、想いのある設計士によって伸びやかな空間となりました。また、EV停止階の制御やEV関連費用の低減策、専用ホールの管理方法など、小規模で特殊な物件のハードルを小さな工夫の積み重ねでクリア。結果として、ちょっと面白くてワクワクするマンションとしてご評価いただけました。

巨艦が主役のマンション事業に、競技用ヨットのような疾走感で挑んだ小さな出来事。予想外の住戸を目の当たりにしたお客様、みなさんの楽しそうな笑顔が印象に残っています。

たぬき

たぬきだけでなくハクビシンも。かわさき宙(そら)と緑の科学館@生田緑地

先日、多摩丘陵の一角にある住宅地を行くたぬきを見かけました。犬や猫とは佇まいが違います。足早に近づくと一軒家の庭先に逃げ込みこちらを伺っています。上の写真のようなオトナでなく、コロンとして。え、豚じゃないよなぁ。かわいいです。

遠目にも、やはり違和感があるのです。犬や猫とは違い、人間が管理する空間では異物なのでしょう。数十年前までは、ここはたぬきの暮らす森だったのかも知れないのに‥‥。ふと、そう思います。

たぬきは、街と森のあいだに存在する生き物。街に顔を出すのは、たぬきの居場所を人間が必要以上に多く貰い過ぎたからなのかもしれません。でもまだ幸いなことに、ここ多摩丘陵にはいくらかの森だけは残されました。

だからこそ、せめて僕は、既にある建物を大切に活かす側にいたい。無理なく気持ちよく暮らせる空間を提案したいものです。

実は、僕にとってたぬきは珍しくありません。緑の最前線にあるマンションを手掛けることが多いので見かけるし、目撃談もお聞きします。野鳥も多い。春先にはまだ舌足らずのウグイスが鳴いています。青空、新緑に鳥の声、ここは桃源郷‥‥。そんな気分です。

あ、今メジロが来ました。

上の写真は生田緑地にある科学館です。丘陵の自然を知ることができる清潔な建物にはプラネタリウムも。現在の投影機メガスターを開発したクリエーター大平さんは、ここの旧プラネタリウムが大好きで子供の頃に通っていたんですって。技術者を再輩出ですよ、すごいですね!

思い込みを捨てて街に出よう

墨色と漆喰の白。アンダルシア、強い日差しを避けた静謐な室内。そんな感じ、どうでしょう。

写真右側の茶色い箱は何でしょう?

ここはどう見ても玄関なんだから。箱って言えば、靴箱に決まってるだろう。

そうです、その通り。靴箱”風”です。これは和家具のアンティークなのですが、ちょっと洋風です。靴箱として生まれてきたものではなさそうです。アンティークといえばデンマークなどが本場。でもそんなにお金かけなくても、肩の力を抜いて探してみてもいいかもしれません。

おっと。言いたかったのは「本場デンマーク→→和家具」というベクトルではなくて、「住宅建材メーカーの”靴箱という商品”→→靴が入れば箱はなんでも良い」という気づきのことです。

靴箱に限りませんね。間取りしかり。

知らず知らずに思い込んでいることって多いのでしょう。思い込みをなくして、心を遊ばせて選択肢を広げてみる。するとちょっと面白いことが生まれて、フツーに見えていた家が、実は楽しい家だと気付いたりするかもしれません。

そんなの知りません

昔むかし、あるところに著名な住宅評論家がいました。「ところでイケダさん、この住戸の収納率は何%ですか?」

「はい、私のところでは算出しておりません!」

後日、収納率を答えられない担当者がいる、と記事にしていただきましたとさ。めでたし、めでたし。

”収納率”は、当時この評論家先生がマンション評価の際、盛んに使用した指標のひとつ。要するに専有面積に対する収納面積の割合です。指標にするのは勝手だけど、押し付けないでほしいな。

収納無しの大部屋だっていいじゃないか!それとも主寝室3帖にクロゼット5帖なんてどうだ、収納率だけはいいゾ! ‥‥なんて。悪態ついて放置していた矢先の出来事でした。子供っぽいハナシです、今思えば。

特に大部分の新築(ファミリー)マンションは外観も間取りも似ていて、立地と価格だけの勝負になってしまうから、収納率みたいな指標もあるといいんでしょうけれど。でもなんだか、益々ツマラナイ感じ。どんどんマンションが面白くないものに見えてくるわ。

でも僕たちは知っている。数字にとらわれない、楽しいマンション選びがあることを!お得もいいけど、心地もね。

ちなみに、今も収納率なるものが営業現場で使われているかは知りません。もう先生も居られないし、僕も新築には興味がないし。

そしてもっと言うと。どこwhereに住むかも大事だが、どのようにhow暮らすのかがもっと大事、ですものね!

あきらめが肝心

僕が無垢材の床を好きなのは、よく傷が付くから。‥‥変な理由ですよね。

杉は床材の中でも特に柔らかいので、すぐに傷が付く。すると最初は、あぁーーっ!と落ち込む。また傷が付き、そして傷だらけになり、もういいやと諦める。その頃には傷跡が落ち着き、馴染んで味になることに気づく。

要は、工業製品のピカピカ新品状態をキープしようとしていた自分を諦めることができる訳です。建材メーカーのフローリングは購入時のキレイさを失わない。だけど一度傷が付くと下地が出てきて悲しい状態になってしまう。つまり経年変化という概念があまりないのです。

よく言われることだけれど、住宅用建材の多くは新品が一番いい状態で、あとは劣化していく。経年変化でなく経年劣化なのです。

杉の床は時間の経過を楽しむことができます。家って、時間と共に愛着がわくんだ、と気付くきっかけをくれます。ゆったりとした有機的な時間、そんなものを改めて教えてくれるような気がします。

オーク材など堅い木も同じです。敢えて傷をつけるビンテージ加工があるくらいですから。まるでジーンズみたい。杉よりも堅い分、あぁーーっ!という叫び声を聞くことが少なくて、家が穏やかでいいかもしれません。